Title 山家心中集 花月集ともいふへし  Note  親本::  宮内庁書陵部蔵本「山家心中集」 〔 〕:親本註釈 ( ):編者註釈 【 】:入力者(新渡戸)註釈 【〇〇一右】  Subtitle 花 三十六首  0001: 何となくはるになりぬときゝしより 心にかゝるみよしのゝ山  0002: 山さむみはなさくへくもなかりけり あまりかねてもたつねきにける  0003:\ よしの山人に心をつけかほに はなまつみねにかゝるしらくも  0004: さかぬまのはなにはくものまかふとも くもとははなのみえすもあらなん 【〇〇一左】  0005:                   〔ヤスウマチツヽ〕 いまさらにはるをわするゝはなもあらし おもひのとめてけふもくらさむ  0006: しらかはのこすゑをみてそなくさむる よしのゝ山にかよふ心を  0007:千 おしなへてはなのさかりになりにけり 山のはことにかゝるしらくも  0008: よしのやまこすゑのはなをみし日より 心はみにもそはすなりにき  0009: あくかるゝこゝろはさても山さくら ちりなんのちやみにかへるへき 【〇〇二右】  0010: はなにそむこゝろのいかてのこりけん すてはてゝきとおもふわかみに  0011:\ ねかはくははなのしたにてはるしなむ そのきさらきのもちつきのころ  0012: ほとけにはさくらのはなをたてまつれ わかのちのよをひとゝふらはゝ  0013: チヨク〕                〔ソ〕 勅とかやくたすみかとのいませかし さらはおそれてはなやちらぬと  0014: なみもなくかせをおさめしゝらかはの きみのをりもやはなはちりけむ 【〇〇二左】  0015:                     〔カリ〕 かさこしのみねのつゝきにさくはなは いつさかりともなくやちるらん  0016: よしの山かせこすくきにさくはなは 人のをるさへおしまれぬかな  0017:           【き】 ちりそむるはなのはつゆにふりぬれは ふみわけまうきしかの山こえ  0018: はるかせのはなのふゝきにうつもれて ゆきもやられぬしかのやまこえ  0019:                                【む】 よしのやまたにへたなひくしらくもは みねのさくらのちるにやあるらん 【〇〇三右】  0020: たちまかふみねのくもをははらふとも はなをちらさぬあらしなりせは  0021: このもとにたひねをすれはよしのやま はなのふすまをきするはるかせ  0022: みねにちるはなはたになるきにそさく いたくいとはしはるの山かせ  0023:              【む】 あたにちるこすゑのはなをなかんれは にはにはきえぬゆきそつもれる  0024:   〔ラ〕 かせあらみこすゑのはなのなかれきて にはになみたつしらかはのさと 【〇〇三左】  0025: はるふかみえたもゆるかてちるはなは かせのとかにはあらぬなるへし  0026: かせにちるはなのゆくゑはしらねとも おしむ心はみにとまりけり  0027:                   【む】 ちるはなをゝしむ心やとゝまりて またこん春のたねになるへき  0028: おしまれぬみたにもよにはあるものを あなあやにくのはなの心や  0029: うきよにはとゝめおかしとはるかせの ちらすははなをゝしむなりけり 【〇〇四右】  0030: もろともにわれをもくしてちりねはな うきよをいとふ心あるみそ  0031:                    【を】        【む】 おもへたゝはなのなからむこのもとに なにおかけにてわかみすみなん  0032:\新 なかむとてはなにもいたくなれぬれは ちるわかれこそかなしかりけれ  0033:   〔カ〕 なにとなくあたなるはなのいろをしも 心にふかくおもひそめけむ   〔〃〕  0034:                         【む】 【む】 はなもちり人もみやこへかへりなは 山さひしくやならんとすらん 【〇〇四左】  0035:      【む】 よしの山ひとんらみゆるしらくもは さきおくれたるさくらなるへし  0036:                    【む】       【む】 ひきかへてはなみるはるはよるはなく 月見んあきはひるなからなん  Subtitle 月 八月十五夜 三十六首  0037: かそへねとこよひの月のけしきにて あきの中はをそらにしるかな  0038: あきはたゝこよひひとよのなゝりけり おなしくもゐに月はすめとも  0039: さやかなるかけにてしるしあきの月 とよにあまれるいつかなりけり 【〇〇五右】  0040: うちつけにまたこむあきのこよひまて 月ゆへおしくなるいのちかな  0041: おひもせぬ十五のとしもあるものを こよひの月のかゝらましかは  0042:  くもりたる十五夜を 童子神心ヲ 月まてはかけなくゝもにつゝまれて こよひならすはやみにみえまし  0043:  九月十三夜 くもきえしあきの中はのそらよりも 月はこよひそなにおへりける  0044:     【ママ】 こよひはとゝころえかほにすむ月の ひかりもてなすきくのしらつゆ 【〇〇五左】  0045:  のちの九月に  月みれはあきくはゝれるとしはまた あかぬ心もそふにそありける  0046:  月のうたあまたよみはへりしに あきのよのそらにいつてうなのみして かけほのかなるゆふつくよかな  0047:               【む】 うれしとやまつ人ことにおもふらん 山のはいつるあきのよの月  0048:               【む】 あつまにはいりぬと人やおもふらん みやこにいつる山のはの月 【〇〇六右】  0049: まちいてゝくまなきよるの月見れは くもそ心にまつかゝりける  0050: はりまかたなたのみおきにこきいてゝ あたりおもはぬ月をなかめむ  0051: わたのはらなみにも月はかくれけり みやこの山をなにいとひけむ  0052:続           【を】 あまのはらおなしいはとおいつれとも ひかりことなるあきのよの月  0053:       【を】 ゆくすゑのつきおはしらすゝきゝぬる あきまたかゝるかけはなかりき  0054: なかむともまことしからぬ心ちして【〇〇六左】 よにあまりたる月のかけかな  0055:                           【を】 つきのためひるとおもふかゝひなきに しはしくもりてよるおしらせよ  0056:           【む】 さためなくとりやなくらんあきのよは 月のひかりをおもひまかへて  0057: 月さゆるあかしのせとにかせふかは こほりのうへにたゝむしらなみ  0058:                     【を】 きよ見かたをきのいはこすしらなみに ひかりおかはすあきのよの月  0059:                        【を】 なかむれはほかのかけこそゆかしけれ かはらしものおあきのよの月 【〇〇七右】  0060:                   【む】  【を】 人も見ぬよしなき山のすゑまてに すむらん月のかけおこそおもへ  0061: みにしみてあはれしらするかせよりも 月にそあきのいろはありける  0062: あきかせやあまつくもゐをはらふらむ ふけゆくまゝに月のさやけき  0063:                       〔そ〕 なか/\にくもるとみえてはるゝよの 月はひかりのそふこゝちする                       〔〃〕  0064:                  【む】   【をお】 よもすからつきこそゝてにやとりけれ んかしのあきおをもひいつれは  0065:\新  【を】 つきお見て心うかれしいにしへの【〇〇七左】 あきにもさらにめくりあひぬる  0066: いつくとてあはれならすはなけれとも あれたるやとそ月はさひしき  0067:                            【む】 ゆくゑなく月に心のすみ/\て はてはいかにかならむとすらん  0068: なか/\に心つくすもくるしきに くもらはいりねあきのよの月  0069: みつのおもにやとる月さへいりぬるは いけのそこにも山やありける  0070: ありあけの月のころにしなりぬれは あきはよるなき心ちこそすれ 【〇〇八右】  0071: いとふよも月すむあきになりぬれは なからへすはとおもひなるかな  0072: なにこともかはりのみゆく世中に おなしかけにてすめる月かな  0073:           【む】 世中のうきをもしらてすん月の かけはわかみの心ちこそすれ  Subtitle こひ 三十六首  0074:                               【む】 ゆみはりのつきにはつれてみしかけの やさしかりしはいつかわすれん 【〇〇八左】  0075:千                   【を】 しらさりきくもゐのよそにみし月の かけおたもとにやとすへしとは  0076:\ つきまつといひなされつるよひのまの こゝろのいろをそてにみえぬる  0077:               【む】 あはれともみる人あらはおもはなん 月のおもてにやとすこゝろを  0078:\千          【をお】 なけゝとて月やはものおをもはする かこちかほなるわかなみたかな  0079:\新 おもひしる人ありあけのよなりせは つきせすみをはうらみさらまし 【〇〇九右】  0080:\新 かすならぬ心のとかになしはてゝ しらせてこそはみをはもうらみめ                         〔〃〕  0081:               【む】 あやめつゝ人しるとてもいかゝせん しのひはつへきたもとならねは  0082: けふこそはけしきを人にしられぬれ さてのみやはとおもふあまりに  0083: みのうさのおもひしらるゝことはりに をさへられぬはなみたなりけり  0084:                                【む】 ものおもへはそてになかるゝなみたかは いかなるみをにあふせありなん 【〇〇九左】  0085:                     【を】 もらさしとそてにあまるをつゝままし なさけおしのふなみたなりせは  0086:                        【を】 けさよりそ人の心はつらからて あけはなれゆくそらおうらむる  0087:                【む】 ことつけてけさのわかれはやすらはん しくれをさへやそてにかくへき  0088:\ きえかへりくれまつそてそしをれぬる をきつる人はつゆならねとも  0089:新 あふまてのいのちもかなとおもひしは くやしかりけるわか心かな 【〇一〇右】  0090: なか/\にあはぬおもひのまゝならは うらみはかりや身につもらまし  0091: さらにまたむすほゝれゆく心かな とけなはとこそおもひしかとも  0092: むかしよりものおもふ人やなからまし 心にかなふなけきなりせは  0093: なつくさのしけりのみゆくおもひかな またるゝあまのあはれしられて  0094: あはれとてとふ人のなとなかるらむ ものおもふやとのおきのうはかせ 【〇一〇左】  0095: くれなゐのいろにたもとのしくれつゝ そてにあきあるこゝちこそすれ  0096: 新いま〕                【む】 けふそしるおもひいてよとちきりしは わすれんとてのなさけなりけり ||〕  0097: ひにそへてうらみはいとゝおほうみの ゆたかなりけるわかなみたかな  0098: なにはかたなみのみいとゝかすそひて うらみのひまやそてのかはかむ  0099: ひをふれはたもとのあめのあしそひて はるへくもなきわかこゝろかな 【〇一一右】  0100: かきくらすなみたのあめのあししけみ さかりにものゝなけかしきかな  0101:    【む】              【を】 いかにせんそのさみたれのなこりより やかておやまぬそてのしつくを  0102: さま/\におもひみたるゝ心をは きみかもとにそつかねあつむる  0103:\新 みをしれは人のとかにはおもはぬに うらみかほにもぬるゝそてかな  0104: 人はうしなけきはつゆもなくさます さはこはいかにすへき心そ 【〇一一左】  0105:\           【む】 かゝるみにおほしたてけんたらちねの をやさへつらきこひもするかな  0106: とにかくにいとはまほしきよなれとも きみかすむにもひかれぬるかな  0107:\千      【も】 ものおもへとんかゝらぬ人もあるものを あはれなりけるみのちきりかな  0108:                           【をお】 むかはらはわれかなけきのむくひにて たれゆへきみかものおゝもはむ  0109:\千 あふと見しそのよのゆめのさめてあれな なかきねふりはうかるへけれと 【〇一二右】  0110: あはれ/\このよはよしやさもあらはあれ こむよもかくやくるしかるへき  Subtitle 雑上 百七十首  0111:                     【む】 なにとなくせりときくこそあはれなれ つみけん人の心しられて  0112: はら/\とおつるなみたそあはれなる たまらすものゝかなしかるへし  0113: わひゝとのなみたにゝたるさくらかな かせみにしめはまつこほれつゝ  0114:                           【ママ】    【む】 よしの山やかていてしとおもふみを【〇一二左】 はなちりはなと人やまつらん  0115: こからしにこのはのおつる山さとは なみたさへこそもろくなりけれ  0116:       〔ヲ〕       【を】 つく/\とものおもふにうちそへて おりあはれなるかねのおとかな  0117:千 あか月のあらしにたくふかねのおとを 心のそこにこたへてそきく  0118: とふ人もおもひたえたる山さとの さひしさなくはすみうからまし  0119: たにのまにひとりそまつもたてり【〇一三右】ける われのみともはなきかとおもへは  0120: まつかせのおとあはれなる山さとに さひしさそふるひくらしのこゑ  0121: 山さとはたにのかけひのたえ/\に みつこひとりのこゑきこゆなり  0122:\新 ふるはたのそはのたつきにゐるはとの ともよふこゑのすこきゆふくれ  0123: みくまのゝはまゆふをふるうらさひて 人なみ/\にとしそかさなる  0124:\ いそのかみふるきをしたふよなりせは【〇一三左】 あれたるやとに人すみなまし  0125:                              【む】 ふるさとはみしよにもにすあせにけり いつちむかしの人ゆきにけん  0126:              【を】 かせふけはあたにやれゆくはせおはの あれはとみをもたのむへきよか  0127:\新 またれつるいりあひのかねのおとすなり あすもやあらはきかむとすらむ  0128:               【も】 いりひさす山のあなたはしらねとん こゝろをかねておくりおきつる  0129: しはのいほはすみうきこともあらましを ともなふ月のかけなかりせは 【〇一四右】  0130: わつらはて月にはよるもかよひけり となりへつたふあせのほそみち  0131: ひかりをはくもらぬ月そみかきける いなはにかゝるあさひこのたま  0132: かけきえてはやまの月はもりもこす たにはこすゑのゆきとみえつゝ  0133:\ あらしこすみねのこのはをわけきつゝ たにのしみつにやとる月かけ  0134:            〔ト〕             〔タヨ〕 月をみるほかもさこそはいとふらめ くもたゝこゝのそらにたゝよへ  0135:               【も】 くもにたゝこよひは月をまかせてん【〇一四左】 いとふとてしもはれぬものゆへ  0136: くるはるはみねにかすみをさきたてゝ たにのかけひをつたふなりけり  0137: こせりつむさわのこほりのひまたえて はるめきそむるさくらゐのさと  0138:\ はるあさみすゝのまかきにかせさえて またゆきゝえぬしからきのさと  0139: はなになるさくらのえたはなにとなく はなゝけれともむつましきかな  0140:                         【む】 すきてゆくはかせなつかしうくひすよ なつさひけりなんめのたちえに 【〇一五右】  0141: うくひすはゐなかのたにのすなれとも たみたるねをはなかぬなりけり  0142: はつはなのひらけはしむるこすゑより そはゑてかせのわたるなるかな  0143: おなしくは月のをりさけ山さくら はなみぬよるのたえまあらせし  0144: そらはるゝくもなりけりなよしの山 はなもてわたるかせとみたれは  0145: はなちらて月はくもらぬよなりせは ものをおもはぬわかみならまし  0146: なにとなくゝむたひにすむ心かな【〇一五左】 いはまのみつにかけうつしつゝ  0147:                               【む】 たにかせはとをふきあけているものを なにとあらしのまとたゝくらん  0148: つかはねとうつれるかけをともにして をしすみけりな山かはのみつ  0149: おとはせていはにたはしるあられこそ よもきのまとのともになりけれ  0150:\(朱) くまのすむこけのいはやまおそろしみ むへなりけりな人もかよはぬ  0151: さと人のおほぬさこぬさたてなめて むまかたむすふのつこなりけり 【〇一六右】  0152:\(朱) くれなゐのいろなりなからたてのほの からしやひとのめにもたてぬは  0153:\(朱) ひさきおひてすゝめとなれるかけなれや なみうつきしに風わたりつゝ  0154: をりかくるなみのたつかとみゆるかな すさきにきゐるさきのむらとり  0155: うらちかみかれたるまつのこすゑには なみのおとをやかせはかるらむ  0156:            〔ま〕 しほかせにいせのはきおきふせはまつ ほすゑをなみのあらたむるかな            〔|〕  0157: さもとゆくふな人いかにさむからむ くまやまたけをおろすあらしに  0158:\(朱) おほつかないふきおろしのかさゝきに あさつまふねはあひやしぬらむ 【〇一六左】  0159:                    【ママ】 いたけもるあまみかときになりにけり えそちかしまをけふりこめたり  0160:             〔も〕 ものゝふのならすゝさみはおoたゝし あけそのしさりかものいれくひ  0161:  はつ春のあしたに たちかはるはるをしれともみせかほに としをへたつるかすみなりけり  0162:  春きたてなを雪さゆ                      【ママ】 かすめともはるをはよそのそらにみて とけむこもなきゆきのしたみつ  0163:  山水春をつくといふことを&M030687;院の前ゝさい宮にて人/\  よみはへりしに はるしれとたにのほそみつもりそくる いはまのこほりひまたえにけり 【〇一七右】  0164:  海辺霞と申ことを、伊勢にてかむぬしともよみはへりし  に なみこすとふたみのまつのみえつるは こすゑにかゝるかすみなりけり  0165:  子日 春ことにのへのこまつをひく人は いくらのちよをふへきなるらむ  0166:\(朱)  わかなにはつねのあひたりしに、人のもとへ申つかはしは  へりしに わかなつむけふにはつねのあひぬれは まつにや人のこゝろひくらむ  0167:  ゆきの中のわかな                【む】 けふはたゝおもひもよらてかへりなん ゆきつむのへのわかなゝりけり  0168:  あめの中のわかな 【〇一七左】 はるさめのふるのゝわかなおゐぬらし ぬれ/\つまむかたみたぬきれ  0169:      わかなによせておもひをのへはへりしに   〔ヲ〕               【を】 わかなふるはるのゝもりにわれなりて うきよお人につみしらせはや  0170:  すみはへりしたにゝうくひすのこゑせすなりはへりしか、  なにとなくあはれなるやうにおほえて                            【む】 【む】 ふるすうとくたにのうくひすなりはては われやかはりてなかんとすらん 【〇一八右】  0171:  むめにうくひすのこゑのかをりてきこえはへりしに む】 んめかゝにたくへてきけはうくひすの こゑなつかしきはるのあけほの  0172:  たひのとまりのむめ                      【む】 ひとりぬるくさのまくらのうつりかは かきねのんめのにほひなりけり  0173:  さかにすみはへりしにみちをへたてゝはうのはへりしよ  り、むめのかせにちりこしを                          【む】 ぬしいかにかせわたるとていとふらむ【〇一八左】 よそにうれしきんめのにほひを  0174:\(朱)  きゝすを をひかはるはるのわかくさまちわひて はらのかれのにきゝすなくなり  0175: もえいつるわかなあさるときこゆなり きゝすなくのゝはるのあけほの  0176:\  かすみのうちのかへるかり なにとなくおほつかなきはあまのはら かすみにきえてかへるかりかね      かへるかりを長楽寺にて  0177: たまつさのはしかきかともみゆる【〇一九右】かな とひおくれつゝかへるかりかね      やなきかせにしたかふ  0178: みわたせはさほのかはらにくりかけて かせによらるゝあをやきのいと      山さとのやなき  0179:\             【む】 やまかつのかたおかゝけてしんるのゝ さかゐにみゆるたまのをやなき  0180:  つとめてはなをたつぬといふ事を 朝赴花 さらにまたかすみにくるゝ山ちかな【〇一九左】 はなをたつぬるはるのあけほの  0181:  ひとりはなをたつぬ                              【む】 たれかまたはなをたつねてよしの山 こけふみわくるいはつたふらん  0182:  はなをたつねてみるといふことを よしの山くもをはかりにたつねいりて 心にかけしはなをみるかな  0183:  くまのへまいりはへりしに、やかみのわうしのはなのさ  かりにておもしろかりしかは、やしろにかきつけはへり  し 【〇二〇右】 まちきつるやかみのさくらさきにけり あらくおろすなみすの山かせ  0184:  上西門院の女はう法勝寺のはなみられしに、あめのふり  てくれにしかはかへられにき、又の日兵衛のつほねのも  とへ花のみゆきおもひいてさせたまふらむとおほえて、    【む】  かくなん申さまほしかりしとておくりはへりし みる人に花もむかしをおもひいてゝ 恋しかるへしあめにしほるゝ  0185:  返し いにしへをしのふるあめとたれかみむ はなもそのよのともしなけれは         【ママ】            【む】  わかきひと/\はへりなん、をいにける【〇二〇左】身はかせのわ  つらはしさに、いとはるることにて、とありし、いとや  さしくきこえはへりき  0186:  花のしたにて月をみて くもにまかふ花のしたにてなかむれは おほろに月はみゆるなりけり  0187:  おいてはなをみるといふことを をいつとになにをかせましこのはるの はなまちつけぬわか身なりせは  0188:  ふるきのさくらにはなのところ/\さきたるをみて わきてみむおいきははなもあはれなり いまいくたひかはるにあふへき  0189:  かきたえことゝはすなりたりし人の【〇二一右】花みにやまさ  とへまてきたりしに としをへておなしこすゑにゝほへとも 花こそ人にあかれさりけれ  0190:  しらかはのはなのさかりに人のいさなひはへりしか  は、みにまかりてかへりしに  【を】    〔や〕 ちるお見てかへる心をさくらはな むかしにかはるしるしなるらむ         〔〃〕  0191:  さわらひ なおさりにやきすてしのゝさわらひは おる人なくてほとろとやなる 【〇二一左】  0192:  山ふきいゑのさかりなりといふことを やまふきのはなのさかりになりぬれは こゝにもゐてとおもほゆるかな  0193:  かはつ ますけおふるあらたにみつをまかすれは うれしかほにもなくかはつかな  0194:  はるのうちにほとゝきすをきくといふことを うれしともおもひそはてぬほとゝきす はるきくことのならひなけれは  0195:  三月一日たらてくれはへりしに 【〇二二右】           【をお】 はるゆへにせめてもものおゝもへとや みそかにたにもたらてくれぬる  0196:  山家のはしめの秋といふことを                            ま さま/\のあはれをこめてこすゑふく かせにあきしるみやはへのさと                            〃  0197:  はしめのあきのころ、なるをと申すところにて、まつの  かせのおとをきゝて                        【む】 つねよりもあきになるをのまつかせは わきてみにしんものにそありける 【〇二二左】  0198:  たなはた                               【む】 ふねよするあまのかはせのゆふくれは すゝしきかせやふきわたすらん  0199:  のゝわたりのあきかせ                【む】 すへはふくかせはのもせにわたるとん あらくはわけしはきのしたつゆ  0200:\  くさのはなみちをさいきる ゆふつゆをはらへはそてにたまきえて みちわけかぬるをのゝはきはら  0201:  ゆくみちのくさのはな おらてゆくそてにもつゆそしをれ【〇二三右】ける はきのえしけきのちのほそみち  0202:  すゝきみちにあたりてしけしといふ事を はなすゝき心あてにそわけてゆく ほの見しみちのあとしなけれは  0203:  のゝはきにしきにゝたり けふそしるそのえにあらふからにしき はきさくのへにありけるものを  0204:  つきのまへのゝのはな はなのいろをかけにうつせはあきのよの 月そのもりのかゝみなりける 【〇二三左】  0205:\(朱・墨)  をみなへしつゆおひたりといふことを                         【を】 はなかえにつゆのしらたまぬきかけて おるそてぬらすおみなへしかな  0206:  いけのほとりのをみなへし           【をを】 たくひなきはなのすかたおゝみなへし いけのかゝみにうつしてそ見る  0207:  月のまへのをみなへし にはさゆる月なりけりなをみなへし しもにあひぬるはなと見たれは  0208:     【む】  のゝはなんしをよみはへりしに                         【む】 はなをこそのへのものとはみにき【〇二四右】つれ くるれはんしのねをもきゝけり  0209:  たのいへのむし                             【む】 こはきさく山たのくろのむしのねに いほもる人やそてぬらすらん  0210:  ひとりむしをきくといふ事を ひとりねのともとはならてきり/\す なくねをきけはものおもひそふ  0211: 【む】  んかし申なれたりし人の、よのかれてふし見にすみはへ  りしをたつねまかりて、にわのくさふかかりしをわけい  りはへりしに、むしの【〇二四左】こゑあはれにおほえてよみはへ  りし                         【む】 わけているそてにあはれをかけよとて つゆけきにはにんしさへそなく  0212:\(朱) 【む】  んしのうたあまたよみはへりしなかに                      【む】 あきかせにほすゑなみよるかるかやの したはにんしのこゑみたるなり  0213:         【む】 よもすからたもとにんしのねをかけて はらひわつらふそてのしらつゆ  0214: むしのねにつゆけかるへきたもとかは あやしや心ものおもふへし 【〇二五右】  0215:\新        【を】  あか月はつかりおきく よこくものかせにわかるゝしのゝめに 山とひこゆるはつかりのこゑ  0216:\新         【を】  とおくちかくかりおきくといふ事を    【を】 しらくもおつはさにかけてゆくかりの かとたのおものともしたふなる  0217:        【を】  よにいりてかりおきく からすはにかくたまつさの心ちして かりなきわたるゆふやみのそら  0218:  きりのうちのしか 【〇二五左】 はれやらぬみ山のきりのたえ/\に ほのかにしかのこゑきこゆなり  0219:  ゆふくれのしか しのはらやきりにまかひてなくしかの こゑかすかなるあきのゆふくれ  0220:  あか月のしか 【を】 よおのこすねさめにきくそあはれなる ゆめのゝしかもかくやなきけむ  0221:新  たのいほのしか を】 おやまたのいほちかくなくしかのねに おとろかされておとろかすかな 【〇二六右】  0222:  山家のしか なにとなくすまはほしくそおもほゆる しかあはれなるあきの山さと  0223:         【を】  つきをまちてしかおきく かねてより心そいとゝすみのほる つきまつみねのさをしかのこゑ  0224:  たのうへの月 ゆふつゆのたましくをたのいなむしろ かふすほすゑに月そやとれる  0225:                   【を】  つきのまへにとをくのそむといへることお、&M030687;院の前ゝ  斎宮に【〇二六左】て人/\よみはへりしに くまもなき月のひかりにさそはれて いくゝもゐまてゆく心そも  0226:  かすかにまいりてつねよりも月あかくあはれなりしに、  みかさの山をみあけてかくおほえはへりし                       【を】 ふりさけし人の心そしられぬる こよひみかさの月おなかめて  0227:            【を】  ひろさわにて、人/\月おもてあそひはへりしに いけにすむ月にかゝれるうきくもは【〇二七右】 はらひのこせるみさひなりけり  0228:                【を】  さぬきの善通しの山にてうみの月おみて くもりなき山にてうみの月見れは しまそこほりのたえまなりける  0229:  月のまへのちるは                          【を】 山おろしの月にこのはをふきかけて ひかりにまかふかけおみるかな  0230:  あきのうたともよみはへりしに しかのねをかきねにこめてきくのみか つきもすみけりあきの山さと 【〇二七左】  0231: いほにもる月のかけこそさひしけれ 山たはひたのおとはかりして  0232: おもふにもすきてあはれにきこゆるは おきのはみたるあきのゆふかせ  0233: なにとなくものかなしくそみえわたる とはたのおものあきのゆふくれ  0234:千                【む】 おほかたのつゆにはなにのなるならん たもとにおくはなみたなりけり  0235:勅           〔ワキテ〕 山さとはあきのくれにそ思しる かなしかりけりこからしのかせ 【〇二八右】  0236:\新  あき、ものへまかりしみちにて 心なきみにもあはれはしられけりしきたつさわのあきのゆふくれ  0237:\         【を】           〔く〕  ひとりころもうつおきoといふことを                               【む】 ひとりねのよさむになるにかさねはや たかためにうつころもなるらん  0238:\  山さとのもみち                【を】 そめてけりもみちのいろのくれなゐお しくると見えしみ山へのさと 【〇二八左】  0239:  〔寂然高野にまいりてふかき(貼紙)〕山のもみちといふ          【む】  事を、みやのほういんの御あむしちにてよむへきよし、  申はへりしにまいりあひて さま/\のにしきありけるみ山かな はな見しみねをしくれそめつゝ  0240:  あきのくれ              【む】 なにとかく心をさへはつくすらん わかなけきにてくるゝあきかは  0241:                 【を】  よもすからあきをゝしむといふことお、きたしらかはに  て人/\よみはへりしに 【〇二九右】 おしめともかねのおとさへかはるかな しもにやつゆをむすひかふらむ  0242:  うつきのついたちになりて、ちりてのちはなをゝもふと  いふことを あをはさへみれは心のとまるかな ちりにしはなのなこりとおもへは  0243:  なつのうたよみはへりしに くさしけるみちかりあけて山さとは はなみし人の心をそみる  0244:      【む】  やしろのへんのうのはな 【〇二九左】 かみかきのあたりにさくもたよりあれや ゆふかけたりとみゆるうのはな  0245:  〔無言に侍りし比郭公のはつこゑをきゝて(貼紙)〕 ほとゝきす人にかたらぬおりにしも はつねきくこそかひなかりけれ  0246:  ゆふくれのほとゝきす                              【む】 さとなるゝたそかれときのほとゝきす きかすかほにて又なのらせん  0247:          【む】  ほとゝきすをまちてんなしくあけぬといふことを 【〇三〇右】 ほとゝきすなかてあけぬとつけかほに またれぬとりのねそきこゆなる  0248:  ほとゝきすのうたよみはへりしに ほとゝきすきかぬものゆへまよはまし はなをたつねし山ちならすは  0249: ほとゝきすおもひもわかぬひとこゑを きゝつといかゝ人にかたらむ  0250: きゝおくる心をくしてほとゝきす たかまの山のみねこえぬなり  0251:\  あめのうちのほとゝきす 【〇三〇左】 さみたれのはれまもみえぬくもちより 山ほとゝきすなきてすくなり  0252:  さみたれのうたよみはへりしに みつなしときゝてふりにしかつまたの いけあらたむるさみたれのころ  0253: さみたれにみつまさるへしうちはしゃ くもてにかゝるなみのしらいと  0254:  はなたちはなによせてふるきをおもふといふことを のきちかきはなたちはなにそてし【〇三一右】めて むかしをしのふなみたつゝまむ  0255:  ゆふくれのすゝみをよみはへりしに なつ山のゆふしたかせのすゝしさに ならのこかけのたゝまうきかな  0256:  うみのほとりのなつの月 つゆのほるあしのわかはに月さえて あきをあらそふなにはえのうら  0257:  あめのゝちのなつのつき ゆふたちのはるれは月そやとりける たまゆりすふるはすのうきはに 【〇三一左】  0258:          【を】    【を】  いつみにむかひて月おみるといふ事お           【を】 むすふてにすゝしきかけおそふるかな しみつにやとるなつのよの月  0259:   〔の〕  なつのくさを                               【む】 みまくさにはらのすゝきをしかふとて ふしとあせぬとしかおもふらん  0260:  たひのみちにくさふかしといふことを たひ人のわくるなつのゝくさしけみ はすゑにすけのをかさはつれて 【〇三二右】  0261:\続  山さとにあきをまつ やまさとはそとものまくすはをしけみ うらふきかへすあきをまつかな  0262:  十月はしめのころ山さとにまかりたりしに、きり/\す  のこゑのわつかにしはへりしを しもうつむむくらかしたのきり/\す あるかなきかのこゑきこゆなり  0263:\続  あか月のちるは しくれかとねさめのとこにきこゆるは あらしにたえぬこのはなりけり 【〇三二左】  0264:\  みつのほとりのかれたるくさ しもにあゐていろあらたむるあしのほの さひしくみゆるなにはえのうら  0265:\(朱)  山のいへのかれたるくさ かきこめしすそのゝすゝきしもかれて さひしさまさるしはのいほかな  0266:千  しつかなるよのふゆの月 しもさゆるにはのこのはをふみわけて 月はみるやとゝふ人もかな  0267:入  ゆふくれのちとり 【〇三三右】 あはちしませとのしほひのゆふくれに すまよりかよふちとりなくなり  0268:  さむきよのちとり さゆれともこゝろやすくそきゝあかす かはせのちとりともくしてけり  0269:  ふねのうちのあられ せとわたるたなゝしをふね心せよ あられみたるゝしまきよこきる  0270:  ふゆのうたともよみはへりしに はなもかれもみちもちりぬ山さとは さひしさを又とふ人もかな 【〇三三左】  0271:        〔カツ〕 たまかけしたまのかつらもおとろへて しもをいたゝくをみなへしかな  0272: ひとりすむかたやまかけのともなれや あらしにはるゝふゆのよの月  0273: つのくにのあしのまろやのさひしさは ふゆこそわきてとふへかりけれ  0274: 山さくらはつゆきふれはさきにけり よしのはさとにふゆこもれとも  0275:  よもすからあらしの山にかせさえて おゝゐのよとにこほりをそしく 【〇三四右】  0276: 山さとはしくれしころのさひしさに あられのおとはやゝまさりけり  0277:\勅 かせさえてよすれはやかてこほりつゝ かへるなみなきしかのからさき  0278:\ よしのやまふもとにふらぬゆきならは はなかとみてやたつねいらまし  0279:         【む】  ゆきのあした両せんと申すところにて、人/\うたよみ  はへりしに たけのほるあさ日のかけのさすまゝに みやこのゆきはきえみきえすみ 【〇三四左】  0280:  山のいへにゆきふかしといふことを とふ人もはつゆきをこそわけこしか みちとちてけりみやまへのさと  0281:       【む】  よのかれてひんかし山てらにはへりしころ、としのくれ  に人/\まうてきておもひのへはへりしに としくれしそのいとなみはわすられて あらぬさまなるいそきをそする  0282:  としのくれにかうやより京へ申つかはしはへりし 【〇三五右】 おしなへておなし月日のすきゆけは みやこもかくやとしはくれぬる  Subtitle さうの下 八十二す  0283:  いはひのうたよみはへりしなかに                              【む】 わかはさすひらのゝまつはさらに又 えたにやちよのかすをそふらん  0284:\ きみかよのためしになにをおもはまし かはらぬまつのいろなかりせは  0285:  うちにかゐあはせあるへしときこえはへりしに、人にか  はりて 【〇三五左】 かひありなきみかみそてにおほはれて こゝろにあはぬこともなきよは  0286: ふくかせははなさくなみのをるたひに さくらかひよるみしまえのそら  0287: なみあらふころものうらのそてかひを みきはにかせのたゝみおくかな  0288:  承安元年六月一日、院くまのへまいらせおはしますつい  てに、すみよしへこかうありけり、す行しまはりて二日、  かのやしろにまいりて【〇三六右】みまはれは、すみのえのつり                     【む】  とのあたらしくしたてられたり、こ三条のゐんのみゆき、            【む】  かみおもひいてたまふらんとおほえて、つりとのにかき  つけはへりし                               【む】 たえたりしきみかみゆきをまちつけて かみいかはかりうれしかるらん  0289:           【む】  まつのしつえあらひけんなみ、いにしへにかはらすこそ  はとおほえて                【む】 いにしへのまつのしつえをあらひけん なみをこゝろにかけてこそみれ 【〇三六左】  0290:  【む】  すんゑ天わうしにこもりて、すみよしにまいりてうたよみ  はへりしに すみよしのまつのねあらふなみのおとを こすゑにかくるおきつしほかせ  0291:\  むかし心さしつかうまつりしならひに、よのかれてのち  にもかものみやしろへまいることにてなむ、としたかく  なりてしこくのかたへす行すとて、又かへりまいらぬこ  とにてこそはとおほえて、仁安三年十月十日のよ 【〇三七右】  まいりてへいまいらせ申に、うちへもいらぬことなれは、  たなうのやしろにとりつきてたてまつりたまへとて心さ  しはへりしに、このまの月ほの/\につねよりもあはれ  におほえて かしこまるしてになみたのかゝるかな またいつかはとおもふあはれに  End  親本::  宮内庁書陵部蔵本「山家心中集」  底本::   書名:  新典社叢書5 西行全歌集下   編者:  桑原博史   発行所: 株式会社 新典社   発行日: 昭和57年07月01日 初版発行        ISBN4-7879-3005-2  入力::   入力者:   新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)   入力機:   IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   スキャナ:  Canon CanoScan LiDE 600F   認識ソフト: LEAD Technologies, Inc. 読取革命Lite(Ver.1.06)   編集機:   IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   入力日:   2007年09月10日-09月11日  校正1::   校正者: 新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)   入力日:    校正 : (誤入力0字 / 全文約0字)* 100 = 0% $Id: sincyu_kunai.txt,v 1.5 2019/07/09 02:30:53 saigyo Exp $