Title 西行歌拾遺  Note (ここには、伝承歌をのぞいて、勅撰集・私撰集<夫本集まで>) (私家集にある歌で、西行の歌集・歌合にないものをあげた。 )  0001:(新古今・巻一〇・九八八)  旅の歌とて 思ひおく人の心にしたはれて 露わくる袖のかかりぬるかな  0002:(新古今・巻一八・一七七九)  題しらず 月の行く山に心を送り入れて 闇なるあとの身をいかにせむ  0003:(新勅撰・巻二・九八)  題しらず 風吹けば花の白波岩越えて 渡りわづらふ山川の水  0004:(新勅撰・恋一・六七三)  題しらず 東路や信夫の里にやすらひて 勿来の関を越えぞわづらふ  0005:(新勅撰・雑二・一一五五)  高倉院の御時、伝へ奏せさすること侍りけるに、書  き添へて侍りける 跡とめて古きを慕ふ世ならなむ 今もありへば昔なるべし  0006:(風雅集・巻一七・一八三二)  西行、御裳濯の歌合とて、前中納言定家に判ずべき  由申しけるを、若かりける頃にて否び申すを、あな  がちに申し侍りければ、判じてつかはすとて、「山  水の深かれとてもかきやらず君に契りを結ぶばかり  ぞ」と申して侍りける返事に、 結びなす末を心にたぐふれば 深く見ゆるを山川の水  0007:(月詣集・巻二)  落花をよめる 有りとてもいでやさこそはあらめとて 花ぞうき世を思ひ知りける  0008:(御裳濯集・巻五) 思ひそむる心の色もかはりけり 今日秋になる夕暮の空  0009:(玄玉集・巻三) 萩が枝の露に心のむすぼれて 袖にうらめる秋の夕暮  0010:(玄玉集・巻三) 波と見えて尾花かたよる滝原に 松の嵐の音流るなり  0011:(雲葉集・巻四) よもすがらささで人待つ槇の戸を なぞしも叩く水鶏なるらむ  0012:(雲葉集・巻八) 山川に光流れてすむ鴛鴦の 心知らるる浪の上かな  0013:(雲葉集・巻九) 昔思ふ心ありてぞながめつる 隅田川原の有明の月  0014:(万代集・巻三) みまくさに原野の薄刈りにきて 鹿の臥しどを見おきつるかな  0015:(夫木集・巻五) 駒なづむ木曽のかけぢの呼子鳥 誰ともわかぬ声聞ゆなり  0016:(夫木集・巻六) 広沢のみぎはに咲けるかきつばた 幾昔をか隔てきぬらむ  0017:(夫木集・巻六) 神路山岩根のつつじ咲きにけり 子等が真袖の色にふりつつ  0018:(夫木集・巻八) 昼は出でて姿の池に影うつせ 声をのみ聞く山時鳥  0019:(夫木集・巻九) よそふなる月のみ顔をやどす池に 所を得ても咲く蓮かな  0020:(夫木集・巻一一) おしなべてなびく尾花の穂なりけり 月の出でつる峰の白雲  0021:(夫木集・巻一三) 胡砂吹かば曇りもぞする陸奥の 蝦夷には見せし秋の夜の月  0022:(夫木集・巻一七) 竹の音のわきて袂にさゆるかな 風に霰の具せられにけり  0023:(夫木集・巻一九) 夏山の夕下風のいつのまに 音吹きかへて秋の来ぬらむ  0024:(夫木集・巻二〇) 朝風に港を出づる苫舟は 高志の山の紅葉なりけり  0025:(夫木集・巻二一) 浪に敷く月の光を高砂の 尾の上の嶺の空よりぞ見る  0026:(夫木集・巻二二) 岩倉や八しほ染めたる紅葉葉を 長谷川に押しひたしたる  0027:(夫木集・巻二六) 波もなし伊良児が崎に漕き出でて われからつける若布刈れ海士  0028:(夫木集・巻二六) 小野山の上より落つる滝の名の 音なしにのみ濡るる袖かな  0029:(夫木集・巻二七) 天の川流れて下る雨をうけて 玉の網はるささがにの糸  0030:(夫木集・巻二九) 老い行けば末なき身こそ悲しけれ 片山端の松の風折れ  0031:(夫木集・巻三四) やはらぐる光を花にかざされて 名を現はせる埼玉の宮  0032:(夫木集・巻三四) 波と見る花の下枝の岩枕 滝の宮にや音とよむらむ  0033:(夫木集・巻三四) 朝日さす鹿島の杉に木綿かけて 曇らず照らせ代を海の宮  0034:(夫木集・巻三六) もえ出づる峰の早蕨とき人の 形見に摘みて見るもはかなし  0035:(寂蓮法師集)  円位上人熊野に龍りたる頃、正月に下向する人につ  けてつかはしける文の奥に、ただ今おぼゆることを  筆にまかすなりと書きて 霞しく熊野が原を見わたせは 波の音さへゆるくなりぬる  0036:(寂蓮法師集)  返し(寂蓮) 霞さへあはれかさぬる三熊野の 浜ゆふぐれを思ひこそやれ  0037:(拾玉集)  円位上人無動寺へ登りて、大乗院の放ち出に湖を見や  りて にほてるやなぎたる朝に見渡せば こぎゆくあとの波だにもなし  0038:(拾玉集)  帰りなむとて朝のことにて程もありしに、今は歌と  申すことは思ひ断ちけれど、これに仕るべかりけれ  とて詠みたりしかば、ただにすぎがたくて和し侍り  し (慈鎮) ほのぼのと近江の海を漕ぐ舟の あとかたなきに行く心かな  0039:(粟田口別当入道集)  西行房まうできて、かへりての朝に申をくりし よひのまに木の間もりこし月影を いつありあけの空と眺めむ  0040:(粟田口別当入道集)  かへし 都出てて山路の雲に君すまば 影を並べむ秋の夜の月  0041:(伝西行筆詠草切)  京に持りし頃、高野より円位上人申しつかはし侍  りし 小倉山ふもとの秋やいかならむ 高野の嶺はしぐれてぞふる  0042:(伝西行筆詠草切)  かへし 小倉山ふもとの秋を待ちやせむ 高野の紅葉待たで散りなば  0043:(関戸家本唯心房集断簡)  薬草喩品  入原のすみかに西行まうで来て、よもすがら月見て  帰りけるのちいひやりける 宵々に月は忘れぬ深山べを 出でにし人のおとづれもせぬ  0044:(関戸家本唯心房集断簡)  返し おのづから心くらべになりにけり 君も月見てさや思ひける  0045:(一品経懐紙) 二つなく三つなき法の雨なれど 五つのうるひあまねかりけり  0046:(一品経懐紙) わたつみの深き誓ひに頼みあれば かの岸辺にも渡らざらめや  End  底本::   書名:  新典社叢書5 西行全歌集下   編者:  桑原博史   発行所: 株式会社 新典社   発行日: 昭和57年07月01日 初版発行        ISBN4-7879-3005-2  入力::   入力者:   新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)   入力機:   IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   スキャナ:  Canon CanoScan LiDE 600F   認識ソフト: LEAD Technologies, Inc. 読取革命Lite(Ver.1.06)   編集機:   IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   入力日:   2007年09月13日  校正1::   校正者: 新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)   入力日:    校正 : (誤入力0字 / 全文約0字)* 100 = 0% $Id: jyuui.txt,v 1.5 2020/01/06 03:45:05 saigyo Exp $