Title  グリーン・カード 70  緑の札 70  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月二十六日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  鬪爭 六  Description  ×、航空會社社長室----。  苦がり切つた顏で、セキはトヤ マと話してゐる。彼等はサクラ號 の爆破に伴ふ損失と、亡くした三 百の乘客の生命に對する責任報償 の謀議をこらしてゐるのだ。  と、セキは何か酷い權幕でトヤ マの言葉に食つてかゝつた。 「死んだ者は死んだ者!一人前の 生命が二萬圓だなんて、そんな要 求に、どうして應じられるもので すか!」 「ところが遺族達の要求は五萬圓 ですぞ」  苦がりきつたまゝで、案外トヤ マは慌てなかつた。狐のやうな眼 をきよろ/\動かせて、セキの顏 を冷やかに眺めてゐた。 「ね、トヤマ、あなたは結局いく らの金を出せばよいのだと思つて いらつしやいます?!」 「さ……やつぱり今もいふ通り二 萬圓の金を出さなくつちや----」 「----と、六百萬圓! ば、ばか な!! そんな金が出せるもんです か! あなたまでが、このあたし を舐めてゐるのです!」 「しかし、ハナドさん----」  苦笑した眼が鋭く光つた。 「わたしが貴女を舐めてゐるので はなくて、實は永い間、わたしが 貴女に舐められてゐたのです、今 日はどうでもその決算をして下さ い----」  セキの顏は滅茶々々に青い神經 の筋を走らせた。 「なにを決算せよと----おつしや います」 「二年前からの百萬圓に對する元 利金の決濟です!」 「あの金----?」         ヽヽヾヾ  それで、セキはがつくりと腹底 の力を潰してしまつた。  トヤマは更に突込んだ。 「わたしは經營會社の社長ではな い! 一使用人に過ぎないもので す、そのわたしが全く個人の意思 で貴女の要求に應じた金ではあり ませんか? れたしはもう寸刻も お待ちすることが出來ない! 貴 女がわたしのこの要求に應じて下 さらないといふなら、あの時の約 束を實行するまでです!」 「あの時の約束と----おつしやい ますのは?」 「旅客機全部の競賣です!」 「旅客機! あれはあたしの心臟 ではありませんか!?」 「無理にとは申しません、金さへ  ヽヽ 今すぐに拂つて下されば、わたし はやつぱり貴女の味方です」  不愉快な、不自然な沈默が續い た。動力を失つたキカイのやうな 沈默だ。  この時、殆どその奇形な沈默と は無關心な熊度で飛び込んで來た のは支配人であつた。 「社長! 大變でございます、遺 族の人達は社長に會はせろ! と 押よせてゐます」  End  Data  トツプ見出し:   あすいよいよ大觀艦式   天皇旗再び   扇港に輝く   聖上陛下神戸御入港   霧島に御移乘  廣告:   主婦の友 十一月號 五拾錢   ホンノリ色白くする カガシクリーム   色白くツク 純無鉛 カガシ固練白粉  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月二十六日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月07日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月18日    $Id: gc70.txt,v 1.2 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $