Title  グリーン・カード 67  緑の札 67  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月二十二日(水曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  鬪爭 三  Description  北極の平原、一面霧のやうな雪 につゝまれた大雪原、大空には幕 のやうなオーロラが映じてゐる。  油を流したやうな氷原の靜け さ!どこにも動的なキカイ的な影 が含まれてはゐない、朗らかな天 地だ。  その眞白な銀世界に二點黒い 影、それは「白い燕」を飛ばしてこ こまで遊びに來たアキラとシノブ だつた。  二人はさつきから一つの雪塊に 腰かけてこの物靜かな誰ひとり邪 魔するものゝない世界で、長い間 語り合つてゐた。  こんなことも語りあつた。 「實際、今までの僕には、人生の 美がわからなかつたかも知れませ ん、それ程に僕の心はキカイの研 究に涸らされてゐたのです、しか し、貴女を知つてから、なぜかし ら僕は、人生から美といふものを 發見したのです」 「ま!奇蹟だわ!ハナドのやうな 方が、そんなことを發見するなん て----ほんとに奇蹟だわ!」  またこんな話もあつた。 「あなた、兄さんの絶叫してゐる 民族愛だなんて、アジアを護れだ なんて----野性の人間の言葉と思 はない?」 「今までは、やはり僕もさう思つ てゐた、が、ぼんやりと----それ がほんとうであるやうな氣がする のです、人間はやつぱり、大きい 愛に生きなければ、眞の平和が得 られないやうな考へが、僕の心に も臺頭してゐます……」 「なら、ハナド、あなた何故お母 さまを赦して上げない?」 「母!!」  ギク!とアキラの瞳が鋭く大空 に飛んだ。  それからひとしきり二人の間に セキのことが話題に上つた。とい ふよりも議論された。勢ひアキラ の靈奪機のことに及んだ、アキラ はあくまでも母のために靈奪機の 完成を誓つた。  シノブは、痛ましいタズが死を かけてまでもやめさせようとした その恐ろしい發明を、良いものと は思はなかつた。  アキラはタズに説いたと同じや うにシノブにも靈の創造が可能で あることを説き、シノブはシノブ でタズと同じやうに、それも神の 冒涜にかぞへた。  果しもない議論にいらだつたア キラは、遂にその議論に止めをさ した。 「シノブ。論より證據です。僕は すでにその發明に成功してゐるの です。」 「ヱツ!」  さすがにシノブも、それが完成 してゐると聞いては驚かざるを得 なかつた。  彼女の驚きは、今まで極力アキ ラの仕亊を諌止しようとした努力 をスツカリ忘れさせた。  シノブはアキラのこの歴史的な 發明に對して、世界で最初の崇拜 者に一變してしまはねばならなか つた。 「ハナド、それ本當ですか。」  End  Data  トツプ見出し:   海軍大演習終る 今曉四時卅分中止命令   闇夜の海上に   大海戰を展開   荒天を衝いて空中戰  廣告:   婦人世界 十一月號 價 五十錢   喘息ニハ アトス 二十錠 壹圓  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月二十二日(水曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月05日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc67.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $