Title  グリーン・カード 31  緑の札 31  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月四日(木曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  悲しき饗宴 五  Description       ヽヽ 「あの人は何ものだらう」 「ハナドの夫人ぢやないかね。」 「イヤ、ハナドはまだ獨身だ、戀 人かな」 「イヤ、ハナドは有名な女ぎらひ だ、戀人ぢやあるまい、しかし素 晴らしい美人だ」             ヽヽ  人々はヒカルの身上に一せいに ゴシツプを飛ばし始めた。想像を たくましうした。 「アラ、タキ先生!」  人々の間に混つてゐたタキ・ハ ルキを逸早く認めたヒカルは、小 走りに驅けよつた。 「よう、ヒカル、久しぶりに逢ひ ますね」 「先生、いつぞやは、少しもいら つしやらないのね」 「少し忙しいもんですから、おゝ、        ヽヽヽ ハナド、今夜はおめでたう」 「イヤ、忙しいなかをわざ/\」 「先生、一度いらつしやい、それ とも私からお訪ねしてもよくつて ?」 「どうぞ」  ハナドはヒカルを連れてミムラ 頭取のゐるところへ行つた。 「今夜はありがたう、お禮申しま す」 「忙しい中をどうもすまない、し            ヽヽ かし御覽の通りの盛會でわしも骨 折がひがあつたと、よろこんでゐ ますぢや」  云ひながらミムラはヒカルに眼 を止めた、              【・】 「紹介します、僕の祕書ミナミ、 ヒカルです」 「どうぞよろしく」 「イヤ、わしはミムラ・タカシだ【。】 よろしく。ホホウ、少しも知らな かつたが、ハナドはなか/\いゝ 人を雇つたね」  ミムラはニヤ/\笑つた。 「ハナドの祕書ださうだ」  待合室には直ぐに傳令が飛ん だ。 「そんなことだらうと思つたよ、 だが、とにかく素晴らしい女性だ」  ヒカルはミムラともう十年も前 から知つてゐるやうに話した。  次から次へ、ミムラはハナドと ヒカルを人々に紹介した。 「どうぞよろしく」  媚を含んで挨拶するヒカルの態 度は、女性の地位が向上して、男 を踏みつけにしてゐる今日では、 むしろ珍らしいほど、淑やかであ  ヽヽヽ りあでやかでもあつた。  女性の地位を肯定しながらも、 なほ五十年百年前の淑やかな女性 をなつかしがる男性共通の感じ は、忽ちのうちにヒカルを好まし いものに思はせた。     ×  十時!  一秒を間違へず開宴のべルが嗚 つた。  人々はざわめきをやめて、それ ぞれのテーブルに着席した。  メーンテーブルにはアキラを中 心に、母親のセキ、妹のタヅ、そ してヒカルが坐つた。  前にはミムラ頭取とタキ博士を 挾んで諸名士が星のやうにならん だ。 「さて----。」  席がきまると、ミムラ頭取は立 上つた。 「こんや、この盛大な會塲に、わ れ/\の天才兒、若きハナド・ア キラ君を迎へて、その仕亊の祝宴 を催すといふことは、愚老ミムラ の此の上もない喜びとなすところ であり、併せてこの祝宴の司會者 に選ばれたことは望外なミムラの 光榮であります……」  ミムラ頭取の第一節の祝辭の言     ヽヽヽ 葉が終るいとまもなく、劇しい拍 手が湧き上つた。  それを抑へるやうに彼は一段と 聲を高めた。 「今、わたしが改めて皆さまの前 でハナド君の仕亊の成功を申し上 げることは、その仕亊に對して甚 だしい不常識であることを、知ら ないわたしではありません、が、 一言申し上げたいことは、ハナド 君のやうな偉大な人間を、われわ れの國に、われ/\の街に生んだ といふことは世界に向つて誇り得 る吾々の何といふ大きい喜びであ りませうか。」  End  Data  トツプ見出し:   國際主義を棄てゝ   勞資協調の途を進む   全帝國を單位に經濟的團結   イギリス勞働組合大會の決議  廣告:   りん病藥 絶對有效 リベール 五日分 金貳圓  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月四日(木曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月05日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月21日  $Id: gc31.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $