Title  グリーン・カード 21  緑の札 21  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月二十三日(土曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  母と妹 二  Description      ヽヽ  興春煙にほてつた血の色を見せ て、さて、トヤマは話の本筋を選 んだ。 「今度の祝宴----それは無論御存 知でありませうが……あれについ て」  セキはすぐに話の續きを遮つた【。】 「あのこと----、それはもう母と して皆さま方の御厚意を、どんな      ヽヽ に有難くおうけしてゐることで御 座いませう、まことに嬉しく、ア キラのためにも光榮に存じてをり ます……」  トヤマは話の腰を折られた形だ つた。それを懸命に取り返さうと して一段と聲をあげた。 「いや、そのことではなく----わ たしのにひたいことは……實は、 貴女に少々御注意と、ま----いつ たやうなことを……」 「それは?」             ヽヽ  セキの顏に、始めてあるものが 動いた。 「話といふのは、あのキカイの權 利で御座いますがね」 「キカイの權利をアキラがどうか したとでもおつしやられるので御 座いませうか?」  いよ/\セキが慌てた。トヤマ は漸く話をもとにもどした。ゆつ たりと膝に落ちたパイプを咥へ て、次の言葉を進めた。 「まつたく、それがどうにかなり そうだと聞いたものですから、貴 女よりもわたしが驚いてゐる始末 です。」 「眞逆。それは何かのお間違ひで は御座いませんかしら?あの子に 限つて----それは信じられませ ん、あの子は母を愛してゐます、 信じてゐます。」 「ところがアジヤ銀行のミムラ頭 取、彼奴が例の巨手をアキラに伸 してゐるのです。まことに相手が 惡い!アキラはその相手に約束を 與へたらしいのです。」 「……」  セキは沈默した。しかしその沈 默は負かされた沈默ごはない。嘲 笑だ!策智が、鐵のやうな神經が トヤマの話を噛み切つた。 「トヤマさん、それで貴方がどう だとおつしやるのです?」 「それはお尋ねになるまでもあり ますまい!そのためにわたしがど れほどの損失を負はされるか---- 御計算を願ひませう。」 「無理で御座います!あのキカイ の權利全部を貴方にお渡しする目 算で、妾の航空會社が貴方から百 萬圓の借金をしたのでは御座い ません、あの金はあの金として返 濟すれば良いのでは御座いません か----?」 「成ほど、しかし、ハナドさん、 ヽヽ よく考へて下さい。これまでゝも 缺損續きの航空會社ではありませ んか?それにあのキ力イが完成さ れて、これからの凡ての航空機が あのキカイを使用しなければ、時 代的に葬られるとすれば、こゝに        ヽヽ 又資金の問題がもち上る!その航 空會社から、貴女はすぐに百萬圓 の金をわたしに支拂つて下さるで せうか?、その結果を考へて下さ れば、これはどうでもお互ひのた めに、あのキカイの權利を、貴女 が御自分の手に握らねばなります まい!?」  スモール・トヤマはセキの鼻眼 鏡の奧を睨んだ。 「トヤマさん!、航空會社がこれ からどうなつてゆくか----その御 心配は貴方の御勝手で御座います けれ共、妾があのキカイの權利を 他の人に奪はれる----そんなこと は考へる程のことでも御座いませ ん、妾のもので御座います。アキラ は妾の子では御座いませんか?」  End  Data  トツプ見出し:   離宮と御用邸   六ケ所を整理する   まづ名古屋城の拂下げ   宮内省の經費節約方針  廣告:   婦女界 九月号 價五十錢  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月二十三日(土曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年07月29日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月02日  $Id: gc21.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $