Title  グリーン・カード 12  緑の札 12  ----五十年後の社會----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月三日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  甦る呪れの日 二  Description  しかし、この言葉も、女性とし てのセキ子に叫びかけるには、何    ヽヽ の力ももたなかつた。 「貴郎は激してゐらつしやいま す、だからそんな冷たい----絶望 的なことをおつしやるので御座い ます、たとへ今、貴郎がこの製作 所と共に破産なさいますとも、貴 郎の生きる道は御座います! そ れは妾の航空會社へお越しになる ことです!」 「な、なにをいふのだ!?」  突然、健二は立ち上つた。 「夫が妻の下僕になる? そ、そ んなことが、夫として出來ること か出來ないことか----考へて見ろ【。】 花戸はそれほどに、骨のない人間 として、この社會で生きたくはな いのだ!」  異常に健二の瞳光がきらめい た。 「それこそ、貴郎こそ、間違つた お考へをもつてゐらつしやいま す、女といふものを何故もつと人 間的にお認め下さらないのでせう か?女もまた、男と同じやうに獨 立した生活者では御座いません か、社會はそれを既に認めてゐる ではありませんか? 貴郎はまだ   ヽヽ   ヽヽ 舊いかたに妾をはめようとしてゐ らつしやいます!此の社會を見ま いとしてゐらつしやいます!」               ヽ  セキ子の瞳光も、健二以上にき ヽ らめき燃えたのだ。しかし、その きらめきは、決して健二のやうに 激したものではない。  冷笑だ!嘲笑だ!そこには妻 でもない、女でもない----冷血な 亊業家の眼が光つたのだ。その眼   ヽヽ は血なまぐさい進軍喇叭に屍を踏 み越えて進む戰士の眼である。味 方を忘れ、たゞ戰ひのみを知る野 獸的な人間の眼だ! 〃科學文明の怖ろしい進軍! キカイは次第に人間の獸であるこ とを證するのだ!!〃  その眼に抗する力もなく、憤怒 に燃える心を健二は再びデスクの 前に埋めた。  セキ子の眼は更に光つた。  ヽヽ 「よく考へて下さいまし、あのこ ろのことをもうお忘れなさいまし たか? 妾は何一つ貴郎のお力を 借りて今日の亊業を完成したの            ヽヽ では御座いません、血のにじむや うな努力と、鐵石のやうな強い意 思とで、妾は妾を築き上げたので 御座います。あのころには、隨分 貴郎からも嘲笑されたもので御座 います、女の身で、そんなことが 遂げられるものかと、貴郎が幾度 おつしやいましたやら----それを 思ひ出すと……」 「お待ち!」  堪へられないやうに手を振つて 健二はセキ子の言葉を遮つた。       ヽヽ 「あのころのわしは惡かつたかも 知れない、何一つ力を貸さなかつ  ヽヽ たわしの心が、今お前に曲解され ても仕方のない亊だ。 しかしそ のためにお前がわしの破産を救濟 しない、わしを見殺しにするとい ふ理由を、そこから發見しようと いふのではあるまい!?」 「なんて----ことを、おつしやい ますの?貴郎は……。」  いひながらセキ子は腕時計の針 をチラ!と眺めて、押へるやうに 健二をみつめた。 「あなたは妾の申上げてゐること がハツキリお判りにならないと見 えますね。」 「イヤ、よく判つてゐる、しかし ……」  健二はます/\せきこんでい ふ。  End  Data  トツプ見出し:   飛行機に裝置の   無線電信を御研究   太刀洗聯隊の秩父宮殿下  廣告:   マル金醤油  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月三日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年07月22日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月14日  $Id: gc12.txt,v 1.8 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $