Title  グリーン・カード 06  緑の札 06  ----五十年後の社會----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年七月二十六日(土)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Shbtitle  プロローグ 六  Description  タキ博士が何かいはふとしたと き、突然窓の外にバツと明るいサ ーチライトの光源が光つた。 「オヤ!」  と思つたのは博士一人ではな い、乘客は皆その光源を認めてガ ヤ/\騒ぎ始めた。 「まあ、なんでせう?」  ヒカルも博士の腕をとらへなが ら窓の外を見やつた。  乘務員の部屋では、係員が望遠 鏡を手にして焦點を合せた。  しかし焦點を合せるまでもな く、サーチライトを明滅させなが ら、近づいて來るのは明らかに一 台の小型の飛行機にちがひなかつ た。  近づくに從つて明らかに機影が 人々の眼に映つた。     ヽヽ 「空の追はぎぢやないか」  誰かそんなことを叫んだ。 「さうかも知れない」  人々は、吾知らずポケツトのピ ストルを握つたことであらう、し かし次の瞬間、その飛行機の機體 に緑色の灯がPといふ小字を表示            ヽヽヽ した。同時に赤色の灯をしきりに 明滅させながら、ます/\近づい て來た。 「警察機だ」 「ストツプを命じてゐるんだ」  乘客はやれ/\と思つた。  乘務員が傳へて來るまでもなく 人々はPといふ字が、警察の意味 を表はし、赤字の明滅燈が、スト ツプを命じてゐることを知つてゐ た。 「しかし何の亊件だらう、どうし てこの旅客機にストツプを命じた のだらう」  それが次の疑問だつた。  一時安堵した乘客は、飛行機が 空中で停止したのも知らずに、ま たガヤ/\いひながら、その疑問 を解かうとした。 「何か起つたんですね」  さういつてヒカルを振返へつた タキ博士はハツとなつた。  さつきまであんなに元氣だつた ヒカルが、顏を眞蒼にして放心し てゐるやうな態になつてゐたから だつた。 「ヒカル、どうかしたんですか」  博士は思はず聲を大きくした。 「イヽヱ、何でもないんです、あ んまり突然で吃驚したもんですか ら」  ヒカルは何でもないことを説明 するやうに笑つて見せた。  しかしその笑顏は淋しかつた。 「そんならいゝですが……。あな たに似合はないことですね」 「本當に----でもあまり思ひがけ ないことですもの」  警察機は旅客機に横づけになつ た。  四人の警官が乘り移つた。  しばらく、乘務員室で何か話し あつていたが、間もなく客室へ現 はれた。 「突然お騒がせしてすみません。 實は一寸調べものがありますから しばらく御容赦を願ひます、御 迷惑ですが、各自の所持品を、一 應あらためさせていたゞきますか ら」  さういふなり、四人の警官は電 光石火、旅客の荷物を片つぱしか ら、開けさせて中を調べた。  ポケツトにあるものも出させて 調べた。  次から次へ、百人ほどの旅客は みんな調べられたが、思ひなしか 日本人の調べは、簡單に、外國人 の調べは嚴重に見えた。 「イヤどうも御迷惑です」  タキ博士の身分を證明する切符 に眼を通したひとりの警官は、さ う挨拶したゞけで博士の荷物を調 べようとはしなかつた。 「御連れですか」  ヒカルを指さして聞いたとき、 博士はちよつとヒカルと顏を合せ た。博士は思はず「はあ」といつて しまつた。 「ぢやあ、----」  警官はヒカルの荷物も調べなか つた。  End  Data トツプ見出し:  樞府諮詢の條約案  九名の委員に附託  けふ正副議長打合せで決す  精査開始は來週末か 廣告:  メンソレータム  近江セールズ株式會社  二十五錢  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年七月二十六日(土)第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月17日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年7月26日  $Id: gc06.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $